「(前略)ねぇ、ねじまき鳥さん、そんなことは私にだってわかるのよ。どうして大人のあなたにそれがわからないのかしら?それがわからないというのは、たしかに大きな問題だと思うな。だからきっとあなたは今、そのことで仕返しされているのよ。いろんなものから。たとえばあなたが捨てちゃおうとした世界から、たとえばあなたが捨てちゃおうと思ったあなた自身から。私の言ってることわかる?」
 僕は黙って、僕の足もとあたりを包んでいる暗闇を見ていた。僕には何を言えばいいのかよくわからなかった。
「ねえ、ねじまき鳥さん」と彼女は静かな声で言った。「 考えなさい。考えなさい。考えなさい」。そして再び井戸の口は蓋でぴったりと塞がれた。
(村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』)